「本番に弱い」は変えられる。

― なぜ模試になると、いつもできる問題が解けなくなるのか ―

先週、受験生を対象に模試が行われました。

今回は、できるだけ本番に近い緊張感をつくるため、実際の入試でも使われるような会場で受験した人もいました。

さまざまな結果が出ています。

普段の実力をしっかり発揮できた人。
むしろ、いつも以上の点数を取った人。

その一方で、

「いつもなら絶対に解ける問題なのに解けなかった」
「頭が真っ白になった」
「時間ばかり気になった」
「最初の科目で失敗して、その後もずっと引きずった」

という人もいました。

同じくらいの学力があっても、本番になると結果に差が出る。

これはなぜなのでしょうか。

「自分はメンタルが弱いから」

そう思った人もいるかもしれません。

でも、そんな簡単な話ではありません。

心理学や生理学では、プレッシャーによって人間の判断やパフォーマンスが変化することが研究されています。

そして大切なのは、

本番に弱いことは、生まれつき決まっているわけではない

ということです。

原因が分かれば、対策することができます。


1.同じ緊張でも「Challenge」と「Threat」がある

まず知ってほしいのが、

Challenge(挑戦)

Threat(脅威)

という考え方です。

たとえば共通テスト本番。

問題冊子が配られる。
周りから紙をめくる音が聞こえる。
時計を見る。
心臓がドキドキする。

ここまでは、多くの人が同じです。

ところが、その状況を脳がどう評価するかが違います。

ある人は、

「緊張している。でも、やってきたことを出せばいい」
「難しくても、自分なら対応できる」

と考えます。

これがChallengeです。

一方で、

「失敗したらどうしよう」
「ここで取れなかったら終わる」
「自分には無理かもしれない」

となる。

これがThreatです。

重要なのは、Challengeの人も緊張しているということです。

つまり、

本番に強い人=緊張しない人

ではありません。

本番に強い人=緊張していても、その状態で戦える人

なのです。

だから試験前に心臓がドキドキしても、

「やばい。緊張してきた」

ではなく、

「身体が本番モードに入ってきた」

と考えてみてください。

緊張をゼロにする必要はありません。


2.「失敗したらどうしよう」が脳の容量を使っている

数学を例にしましょう。

普段なら解ける問題なのに、本番になると突然解けなくなる。

これは単なる気合の問題ではありません。

人間には、情報を一時的に保持しながら処理するワーキングメモリという仕組みがあります。

数学では、

「この条件を使って」
「さっきの式を変形して」
「ここに代入すると……」

と複数の情報を同時に扱います。

ところが本番になると、

「あと20分しかない」
「隣の人、もう次のページに行ってる」
「これ落としたら何点?」
「今回失敗したら志望校を変えないといけないかも」

という情報まで頭の中に入ってきます。

すると、問題を解くために使える認知資源が減ります。

つまり、

「実力がなくなった」のではなく、「持っている実力を使うための脳の余裕がなくなった」

ということが起こり得るのです。

だから本番では、考える対象を減らす。

「合格できるか」
ではなく、

「この1問で何を使うか」

「あと何点必要か」
ではなく、

「次の3分で何をするか」

本番中に合否を考えても、点数は1点も増えません。

未来ではなく、目の前の作業に戻る。

これも本番力です。


3.「結果を出そう」としすぎると、逆に崩れる

「絶対に700点取る」
「数学は80点必要」
「この問題は絶対に落とせない」

目標を持つこと自体は大切です。

しかし試験中まで結果を意識し続けると、

問題を解くことより、「問題を解いている自分」を監視する

ようになることがあります。

「今のペース大丈夫?」
「こんなに時間を使っていい?」
「間違えてない?」

これでは目の前の問題への集中が削られます。

目標点を考えるのは試験が始まる前まで。

始まったら、

点数を取りにいくのではなく、問題を1問ずつ処理する。

結果は、その積み重ねです。


4.実は「失敗した後」が一番大事

本番に強い人は、失敗しない人なのでしょうか。

違います。

数学ⅠAで失敗することもあります。
英語が読めないこともあります。
分からない問題が3問続くこともあります。

違うのは、

崩れてから戻ってくるまでの時間

です。

数学ⅠAで失敗して、

「終わった……」
「昨日もっとやればよかった」
「これじゃ第一志望は無理だ」

と考えながら次の科目を受ければ、

数学ⅠAの失敗で数学ⅡBCまで失点することになります。

これは非常にもったいない。

本番では、

終わった科目は変更できない。次の科目は変更できる。

だから科目が終わった瞬間、

「はい、終了。」

と頭の中で区切る練習をしてください。

休み時間に答え合わせをしない。
SNSで難易度を検索しない。
友達と「問3何になった?」をやらない。

水を飲む。
トイレに行く。
少し身体を動かす。
次の科目の準備をする。

本番力とは、

崩れない力ではなく、崩れても戻れる力

でもあります。


5.本番に強い人は「想定外」が少ない

本番で突然強くなる魔法はありません。

むしろ本番に強い人ほど、

本番を「経験したことのある状況」に変えています。

時間を測って過去問を解く。
知らない場所で模試を受ける。
休み時間まで本番と同じように過ごす。
朝から夕方まで複数科目を解く。

人間は、経験したことのない状況ほど対応が難しくなります。

逆に、

「この感じ、前にも経験した」

と思えるだけで違います。

だから模試で緊張した人。

今回の模試は失敗ではありません。

本番で初めて経験するはずだった緊張を、8月に経験できた。

そう考えてください。


6.だから、普段から「少し厳しい環境」で勉強してほしい

ここからが、今回一番伝えたいことです。

普段の勉強を思い出してください。

ソファに座る。
スマホを横に置く。
飲み物を飲む。
少し数学をする。
LINEが来たので見る。
また数学に戻る。
疲れたのでYouTubeを見る。

これで3時間。

本人としては、

「今日は3時間勉強した」

かもしれません。

でも、入試本番の3時間とは全く違います。

本番では、

スマホは見られない。
好きなときに休めない。
分からなくても逃げられない。
決められた時間で結果を出さなければならない。

つまり、

普段と本番の環境が違いすぎる。

これでは本番だけ突然、

「集中しろ!」
「緊張するな!」
「実力を出せ!」

と言われても難しい。

だから普段から、

あえて小さなプレッシャーを作る。

これをやってほしいのです。

心理学には、ストレスに対する対処を練習する「stress inoculation」という考え方があります。

大切なのは、

ストレスをゼロにすることではなく、対処できる程度の負荷を経験し、その中で行動する練習をすること。

いきなり本番100%ではなく、

30%、50%、70%……

と経験していく。

筋力トレーニングと少し似ています。


7.一番簡単な方法は「時間を短くする」

たとえば共通テスト数学ⅠAが70分なら、

普段から70分で解く。

これは当然です。

でも慣れてきたら、

65分で解く。

さらに、

60分で解く。

英語リーディングでも、

「大問3を15分以内」

など、自分で制限時間を作る。

すると、

「あと10分しかない」
「飛ばすべきか?」
「この問題にあと何分使う?」

という判断を練習できます。

本番で初めて時間に追われるのではなく、

普段から時間に追われながら正しく判断する練習をする。

ただし、毎回時間を短くすればいいわけではありません。

新しい単元を理解するときや、難問の解法を深く考えるときには、時間をかける勉強も必要です。

理解する時間と、結果を出す時間を分ける。

これが大切です。


8.「ダラダラ3時間」より「本気の50分」

勉強時間だけを評価するのも危険です。

3時間机に座っていても、

実際に高い集中状態だったのが1時間なら、

本番に近い練習は1時間しかできていません。

そこで、

「今から50分は試験」

と決める。

スマホをしまう。
トイレを済ませる。
飲み物も準備する。

そして開始したら立たない。
話さない。
他のことをしない。

50分終了。

そこで休む。

これは、

ONとOFFを明確にする

ということです。

人間の集中力を永久に高い状態に保つことはできません。

だからこそ、

休むときは休む。
やるときはやる。

「ずっとちょっと勉強している」

という状態を減らしてほしい。


9.姿勢も「本番モード」のスイッチにする

姿勢についても考えてみましょう。

「背筋を伸ばせば頭が良くなる」

という単純な話ではありません。

しかし、

ベッドで寝転びながら英単語を見る状態と、
机に座り、問題冊子と答案用紙を置き、時計を見ながら問題を解く状態。

どちらが入試本番に近いでしょうか。

当然、後者です。

だから姿勢そのものに魔法があるというより、

身体・場所・道具まで含めて「これから集中する」という条件を固定する

ことに意味があります。

椅子に深く座る。
机の上には必要なものだけ。
スマホは視界から消す。
時計を置く。
背中を起こす。
問題を開く。

この形を毎回同じにする。

すると、

「この姿勢、この机、この準備になったら集中する」

という自分なりのルーティンを作ることができます。

スポーツ選手が本番前に毎回同じ動作をするのと似ています。


10.ただし「ずっと緊張」は絶対に違う

ここは勘違いしないでください。

「厳しい環境が大事」

だから、

朝から晩まで緊張して勉強する。
休憩しない。
睡眠を削る。
常に自分を追い込む。

これは違います。

脳も身体も、負荷の後には回復が必要です。

睡眠不足は注意力・判断力・記憶などに悪影響を与えます。

つまり、

本番力を鍛えるために睡眠を削って、本番で使う脳の機能を落とす

のは本末転倒です。

必要なのは、

負荷 → 回復 → 負荷 → 回復

です。

だから、

ONのときは本気。

OFFのときはしっかり休む。

この切り替えが重要です。


11.「本番モード」を毎日の勉強に入れよう

これから受験生には、毎日の勉強の中に

「本番モード」

を入れてほしいと思います。

たとえば1日6時間勉強するなら、6時間すべてを緊張状態にする必要はありません。

そのうち50分でもいい。

その50分だけは、

「これは試験だ」

と決める。

具体的には、

①スマホを完全にしまう
②時間を測る
③普段より少し厳しい制限時間を設定する
④途中で立たない
⑤答えを見ない
⑥分からない問題があっても、その場で判断する
⑦終了時間になったら必ずペンを置く

これをやる。

そして終わったら、

「何点だったか」

だけではなく、

「自分はプレッシャーがかかったとき、どうなったか」

を振り返る。

時間が気になった?
1問に固執した?
焦って問題文を読み飛ばした?
計算が雑になった?
分からない問題の後に崩れた?

そこまで分析する。

これが本当の意味での本番練習です。


12.緊張したら「落ち着こう」としなくていい

本番で心臓が速くなる。
手に汗をかく。
少し呼吸が速くなる。

すると、

「落ち着け」
「緊張するな」

と思います。

でも、

「緊張してはいけない」

と考えるほど、緊張している自分が気になります。

だから発想を変えてください。

「緊張していてOK。」

心臓が動いているなら、

「身体が準備している。」

手に汗をかいたら、

「本番モードに入った。」

そして、

「この状態のまま解けばいい。」

ChallengeとThreatの違いは、緊張があるかないかだけではありません。

その状況を、

「自分には対応できる」

と評価できるかどうかです。

そのためには、

「このくらいの緊張状態で解いたことがある」

という経験を普段から増やしておく。

だからこそ、普段の小さなプレッシャーが役に立つのです。


13.本番に強い人は「緊張しない人」ではない

最後に。

今回の模試で思ったような結果が出なかった人へ。

「自分は本番に弱い」

で終わらせないでください。

なぜ力を出せなかったのかを考えてみましょう。

緊張をThreatと捉えていたのか。
合否を考えすぎたのか。
時間を気にしすぎたのか。
1問に固執したのか。
前の科目を引きずったのか。
本番形式の経験が足りなかったのか。
自分なりのルーティンがなかったのか。
普段の勉強が快適すぎて、プレッシャーの中で解く経験が不足していたのか。

原因によって、対策は変わります。

そして、

原因が分かるということは、改善できるということです。

これから何度も模試があります。

点数を見るだけではなく、

「プレッシャーがかかったとき、自分はどう変化する人間なのか」

を観察してください。

模試は学力を測る場所であると同時に、

本番の自分を研究する場所

でもあります。

本番に強い人とは、緊張しない人ではありません。

緊張しても、
時間がなくなっても、
難しい問題が出ても、
一度失敗しても、

「じゃあ、次に何をする?」

と目の前の一手に戻れる人です。

その力は、性格だけで決まるものではありません。

練習できます。

だから普段から、

少しだけ不自由に。
少しだけ厳しく。
少しだけ緊張感を持って。

そして、終わったらしっかり休む。

本番で100%のプレッシャーに耐えたいなら、

普段から30%、50%、70%のプレッシャーを経験しておく。

本番だけ頑張るのではなく、

「本番で戦える自分」を、普段の勉強の中で作っていく。

今回の模試で緊張したなら、それは弱点が見つかったということです。

共通テスト本番までに鍛えればいい。

学力だけではなく、

「持っている実力を、本番で出し切る力」

まで鍛えて、本番を迎えましょう。

そして、何よりも自分ひとりで抱え込まないことです。

周りの人の力で大きく変わっていきます。困ったらすぐに相談。

これしかないと思います。頼れる人に、どんなことでも聞いていきましょう。